【第3話】catholic Re:load(1732A.D.-2275A.D.)

Hertog Luc van Oranje-Maas…

 ルクの腕の中でイヴが眠っている。呼びかけずに天蓋つきのベッドに運んでやった。ほっといてもすぐに起きると思ったのもあるが、今ならじっくり観察できると思ったのも事実だ。イヴの白くてきめ細やかな頬に、優しく触れた。

「イヴ……」

 膝丈のニットワンピース。『過去』とは時代が違うから服装の系統も違うが、イヴ自身の容姿は同じだ。目も鼻も唇も、長いまつ毛も――

 ルクは頭を振って余計な思考を追い出し、豪華絢爛な部屋の隅のクローゼットを開いた。

 この部屋の家具や飾りや衣類は一八世紀のもの。二二七五年より不便な時代だったが、職人の心意気を感じられるものは溢れていた。

 深緑の上着に手を伸ばすと、バチッと青白い光を放つ静電気が起きた。

「ダメか」

 その隣の上着も、さらに隣の上着も、触れようとしたら静電気を放った。溜め息を吐いたところで、背後から衣擦れの音がした。

「あの……」

「少し待っていてくれ」

「待ちますけど、何しているんですか?」

 イヴがベッドから這い出して、背後にきた。

「服を探している」

 遂に静電気が起きないものを発見した。かつてのルクが一五歳頃に愛用していた黒い上着だ。

「見つかった。これを着ろ」

「これって男性用では? 別にいいですけど」

 イヴがきょとんと首を傾げた。その姿を見て嬉しくなった。今のイヴにとってルクは初対面なのに案外普通に喋ってくれる。セーレとの件を邪魔したとはいえ第一印象は悪くなかったらしい。

「この中の服を適当に触ってみてくれ」

「触るだけでいいんですか?」

 イヴが服に触れても、ルクのときと違って静電気は起きなかった。

「ふむ……。今からしばらくの間、君は俺以外に話しかけてはいけない。俺が許可したもの以外に触るのも禁止だ」

「どうしてですか?」

 足音がする。ルクはイヴの頭から上着を被せ、自分の後ろに隠した。

「すまない。少しの間だけ我慢してくれ」

 部屋に入ってきた青年は、ルクを認識するなりギョッと目を丸くした。彼は『当時の』ホーリーオルデン騎士団の幹部だ。

 次いで彼は上着を被ったイヴを見て、またルクを見た。

「ルク様、ウィーンから帰っていたのですか? 女性を連れて? どうして? ていうか少し見ない間に何だか外見が大人になっていませんか?」

「俺はこの時代のルク・オラニエ=マースではない。何も見なかったことにして出て行ってくれ」

「それって例のあれですよね?」

「そうだ」

「わかりました。これから外出します?」

「三〇分後に移動する」

「承知しました。裏門から出られるように近衛兵を動かしますね」

 彼が出て行くのを見届けてから、ルクはイヴを解放してやった。

「あと三〇分、この部屋で待とう」

 ルクは先程被せた上着を、イヴに着せてやった。

「外は寒い。身体を冷やさないほうがいい。それに君の服は目立つから隠さないと」

「サイズが合っていないものを着ているほうが目立ちそうですが」

 時間がくるまですることはない。ルクがベッド脇のロッキングチェアに座ると、イヴは天井を見上げた。

「この部屋、木彫りが多用されていて大昔のカトリック教会の装飾みたいです」

「詳しいな」

 室内を一周して観察したら気が済んだのか、遠慮がちに言ってきた。

「ベッドに座っていいですか?」

「ああ」

 イヴがちょこんと行儀よく腰を下ろしたのはルクの向かいだった。反対側ではなく。それだけでとても嬉しくなった。

「ルクさんでしたっけ?」

「ルクでいい」

「エクソシストですよね?」

「そうだ。ほら、剣も持っているぞ」

 ルクは鞘に入れた剣を持ち上げて見せた。

 エクソシストの武器は聖水を使った特殊な鍛冶で創る聖剣だ。刃の表面が一般的な剣より広いから持ち運びは不便だが、オフィスワーカーが仕事道具としてノートパソコンを持ち歩くようなもので、手放せない。

「それ、エクソシストは皆持っているんですか?」

「ああ。支給されるからな」

「そんな立派な剣があるのに、どうして空き缶で攻撃したんです?」

「俺がトーチを込めれば何でも武器になる」

 イヴが首を傾げた。専門用語はわからないか。話題を変えることにした。

「俺は君を探すためにドレスデンにきた」

「そういうのは警察のお仕事では?」

「自殺するために大悪魔を召喚する可能性があったからだ」

「私、召喚しました」

「そうだな。俺が一足遅かったせいだ」

「捕まったらどうなります?」

「一般的な流れでは、カウンセリングを受けた後で教会奉仕などのボランティアを義務づけられるが、イヴの場合は数日前に成人しているから――」

「召喚したことについて、宗教裁判にかけられるってことですね?」

「そうだ。イヴはどうしたい?」

「どうしたい……と、いいますと?」

「宗教裁判で有罪になり精神病院で治療を受けて教会で働く監視生活をしたいか?」

「したくないですよ」

「では将来の夢はあるのか? 夏に高校を卒業するだろう?」

「進学も就職も決まっていません。卒業前に自殺するつもりでしたから。私、社会に出たくないんです」

 現代はベーシック・インカムがあるから働かないで生きることは可能だ。稼がない分質素にはなるが、そういう選択をしている者たちも少数とはいえ存在している。

「霊感があって色々視えちゃうから、欲が渦巻く場所は不得意です」

「だろうな」

「私のこと知っているみたいな言い方ですね」

「霊感がないと大悪魔の召喚は難しい」

 霊感がなくても召喚はできるが、誤魔化すために嘘を吐いた。

「いわくつきの場所に行くと確実に視えます。しんどいです」

「ユーロ連邦は平和だから、そういう場所は少ないだろ」

「確かにそうですが、偶然遭遇することはありますよ」

 ルクが体重をかけると背もたれがミシッと音を立てた。

「なあ、イヴ」

「はい」

「自殺を考えた理由がなくなれば生きていけるか?」

「わかりません」

「有罪になりたくないのは本心か?」

「もちろんです」

「そうか。では、そろそろ行こうか」

「え、ちょっと!」

 ルクはテラスに出ると、躊躇することなく柵を乗り越えて傍の大木の枝に右足をかけた。

「危ないですよ!」

「二階だから問題ない」

 ルクはひょいっと枝から飛び下りて、テラスを見上げた。

「受け止めるから、飛び下りろ」

 イヴはおそるおそる右足をかけたが、すぐに引っ込めてしまった。

「怖いか?」

 答えない。

「イヴ?」

「自分で下りるので受け止めてくれなくていいです。背を向けていてください」

「しかし――」

「下着を見られたくないんです」

「気にしなくていいのに」

「言う通りにしてくれないと、ここから一歩も動きません」

 頑固だな。ルクは苦笑して従った。

 しばしガサガサ音がしていたが、無事に下りられたらしい。

「こっちを見ても大丈夫です」

 身体を向けると、イヴは上着についた木くずを払っていた。

「では、行くぞ」

 歩き出したルクのすぐ後ろを、イヴはきちんとついてくる。近衛兵のいない裏門を出ると、石畳の道がどこまでも続いている。室内から漏れる光や門前のランプに照らされて足元は明るいが、この先は月明かりしかない。

 イヴは今出てきた建物を眺めて、「わあ」と感嘆の声を漏らした。

 円塔に挟まれたネオゴシック建築の茶色い古城。部屋数は一〇〇を超えている。ここからでは見えないが、敷地内には薔薇園や噴水もある。ルクは見慣れすぎて今更何とも思わないが、イヴは目を輝かせている。

「行くぞ」

 名残惜しそうに何度も振り返っているイヴに声をかけ、光を背後に石畳の道を進んだ。

「あの……」

「どうした?」

「当然のように歩いていますけど、説明なしですか?」

「説明とは?」

「この昔のヨーロッパっぽい場所はどこで、何が起きて私たちはここにいるのでしょうか」

「知りたいことはそれで全てか?」

「現時点では。いつ説明してくれるのかなって、結構待っていたんですけど」

「そうか。すまない。質問してもらえれば大抵のことは答えるが、俺は質問されないと大事なことでも伝えるのを忘れることがある」

 突然、イヴがルクの腕を掴んだ。驚いて足を止めると、イヴが震えていることに気付いた。

「寒いのか?」

「いえ」

「では、どうした?」

「……暗くて怖いだけです」

「暗くて……怖い……?」

「……バカにしています?」

「いや、随分可愛いことを言うなと」

「……やっぱりバカにしていますね」

「していない」

 愛しさが心を満たし、ルクはイヴの手を握った。

「俺がいるから、怖がらなくていい」

「お化けや蛇や虫が出ても何とかしてくれます?」

「全部追い払ってやる」

 イヴと並んで歩きながら、質問に一つずつ回答した。

「ここは一七三二年の春の神聖ローマ帝国。ネーデルラントのリンブルフ州にあるマーストリヒトという都市だ」

 一七三二年は独立戦争を終えてネーデルラント連邦共和国という国家が成立していたが、リンブルフ州だけは神聖ローマ帝国に組み込まれている。

 理由はリンブルフ州を支配しているオラニエ=マース家が神聖ローマ帝国の領邦になる道を選んだからで、神聖ローマ帝国の消滅までその体制が続く。

「神聖ローマ帝国……? 大昔のドイツだった国ですよね? タイムスリップしたってことですか?」

「そうだな。俺が時間移動したから」

「時間移動って……」

「さっきいた場所は神聖ローマ帝国時代のオラニエ=マース家の城だ」

「そういえばあなた、ルク・オラニエ=マースって名乗っていましたよね?」

「ああ」

「ユーロ連邦建国に貢献した貴族であり、エクソシストの始祖であり、エクソシストが所属するカトリック組織であるホーリーオルデン騎士団の代表を務めるお家柄で、全ての国民にカトリックになることを義務づけた、あのオラニエ=マース家の人ってことですか?」

「教科書通りの正しい知識だな」

 ネズミか蛇か、近くでガサガサ音がして、イヴがルクの腕に抱き着いてきた。繋いだ手にグッと力を入れてきて少し痛い。とても可愛いと思った。

「どうして?」

「どうして……とは?」

「どうしてそんな特権階級の富裕層が、ただの庶民の高校生を探しにきたんですか?」

「そういう日があってもいいだろ」

「時間移動って何ですか?」

「歴史上いつも俺だけが、自在に座標を指定して過去に行ける特殊能力を持って生まれる。未来には行けない。行けるのは過去だけだ」

「その言い回し、変ではないですか?」

「そうか?」

 野生動物の恐怖がなくなったからか、イヴがルクの腕から身体を離した。残念だが、丁度いい頃合いか。もう少しで目的地の廃墟に辿り着く。

「歴史上っていっても、あなたは今ここにいるあなただけでしょう?」

「そうでもない」

「はあ?」

「俺は全ての過去生の記憶を引き継いで、そのときの自分から見たオラニエ=マース家の五代先の子孫への転生を繰り返している。容姿もまったく同じで変わらない。だからさっき部屋に入ってきた青年は俺をこの時代のルク・オラニエ=マースと間違えた」

 ピタッと、イヴが足を止めた。

「あのお……情報の出し方、極端です」

「そうか?」

「簡単なところから少しずつ開示をお願いしたいというか」

「その割に、君はこの一連の不思議な出来事を素直に受け入れているように見えるが」

「そうですね。お化けも大悪魔もいるし、そういうことだってあるかもしれないと思いました」

「君の感性は話が早くてありがたい。時間移動の話に戻すと、どの時間と場所、つまりどの座標を指定するかが重要だ。戦場のど真ん中に降り立ったら困るからな。だからだいたい実家の自分の部屋に行くようにしている」

「その時間移動で神聖ローマ帝国にきちゃった今、どうやったら二二七五年に帰れるんですか?」

「いつでも帰れるが、その前にやっておきたいことがある」

 先に進もうとしたら、イヴが上目遣いで尋ねてきた。

「何もしないですか?」

「何も、というと?」

「表現を変えます。襲いかからないですか?」

「俺がイヴに――と、聞いているのか?」

「その通りです」

「襲わない。何をそんなに怯えている?」

 イヴは繋いだ手を離さない。試しているのか、信じているのか、どちらだろうか。

 触れている状態なら、知る方法がある――

 実行しようとしたが、その前にイヴが弱々しく回答した。

「男性と二人きりになるとトラブルが起こるから普段は気をつけているので、戸惑っているんです。あなたのことが嫌とか、そういうわけではありません」

「そうか。今まで一人でよく頑張ったな。もう大丈夫だ」

「何でそんなこと言うんです?」

「その意味はこれからわかる」

 ルクはイヴについての資料を思い出した。

「トラブルが起きても必ず助けが現れて、全て未遂で終わっただろ?」

「はい」

「君は守られているからな。死ねないのも、未遂で終わったのも、全部そのおかげだ」

「それってどういう……」

「俺だけではない。他のエクソシストも問題ない」

 ルクはイヴの手を引いて、歩き出した。

 廃墟の敷地に入ろうとしたら、イヴはまたルクに引っついてきた。だんだん扱いを心得てきた。大悪魔のことは平気でも禍々しい空間は不得意らしい。

「ここには入りたくありません」

「ところでイヴ、何故セーレを呼び出した?」

「殺してもらおうと思って」

「他の大悪魔もいるのに、あいつを選んだのか?」

「クラスメイトの女の子がENSDでノン・バイオレンスと診断されてから、彼女の背後に骸骨の悪魔が視えるようになりました。その悪魔に話しかけたらセーレのシジルを教えてくれたんです」

 低級悪魔はノン・バイオレンスに憑くことが多い。セーレのシジルを教えたならセーレの配下だ。セーレは大悪魔の中では下位の存在だから、ルクとしては都合がいい。

「君は何故、死のうとする?」

「回答を拒否してもいいですか?」

「いいだろう」

「他の話題にしていただいてもいいでしょうか?」

「ああ」

 ルクは剣の柄から鞘の先までを発光させて、ランプ代わりにした。

「便利ですね」

「エクソシストは暗闇に強いが、君は苦手みたいだから」

「それでわざわざ照らしてくれているんですか?」

「まあな」

「ありがとうございます」

 両開きドアの片側が外れている玄関を踏み越えて大広間を進んだ。照らしているから、散らかった床を埋め尽くす古い陶磁器や書類の残骸や、剥がれた花柄の壁紙などの細部までよく見える。

「イヴ、ここから早く出たいなら、目の前に現れろとセーレに呼びかけてくれ」

「セーレを殺しますか?」

 召喚した大悪魔を失うと自殺できなくなると思っているのか。

「殺さない。エクソシストは大悪魔を魔界に送り返すだけだ。存在そのものは消滅しないから、回復すれば彼らはまた人間界に姿を現せる」

「それなら、承知しました」

 ルクは呆気に取られた。

「君はそれを心配していたのか……? 自殺できなくなることではなく」

「自分の命を捨てたいからといって、第三者の命を奪いたくはないですから」

「そうか」

 ふっと笑みがこぼれてついイヴの頭を撫でると、イヴは泣きそうな顔で見上げてきた。

「手を――」

 じっとルクを見ている。

「離さないでください。ここで五人殺されています。そのうち二人はまだ子供でした。ここにお化けはいませんが、最後の想いが残っていて怖いんです」

 イヴは自分の頭に置かれたルクの手を取って、握った。震えている。

 ルクは感心した。全て正解だ。

 この廃墟をエクソシストが浄化せずに残している理由は、いざというとき一般市民を巻き込まずに戦える場所だからだ。

「すまない。ここを出るまでは手を離さないから安心してくれ」

「では、呼びます。セーレ、出てきてください」

 目の前にセーレのシジルが現れたかと思うと、消えた。代わりに黒髪の青年がその位置に残された。

「……エクソ……シスト……?」

 ドレスデンで喰らわせた一発がまだ影響しているらしい。セーレは跪いて肩を上下させている。

 ありったけの威力を込めた攻撃をお見舞いするために鞘から剣を引き抜きたいが、イヴがしがみついていて左手が塞がれている。離さないと約束した手前、このままやるしかない。

 ルクは鞘から出さずに、棍棒の要領でセーレに叩きつけた。

 正面から受けたセーレは真っ二つになり、苦悶の表情を浮かべ、身体が分解されて粒子になって消えた。蛍の大群が飛び立つように美しい光景だった。

「本当に殺していないですよね?」

「ああ。大悪魔の身体は人間とは違うから心配しなくていい」

 ここにいる理由はもうない。ルクが時間移動を発動すると視界が暗転し、どこまでも白いだけの空間に切り替わった。一七三二年にきたときと違って眠っていないイヴは不安そうだ。

「ここはどこですか?」

「宇宙のどこかだと思ってくれ。指定した座標が遠いとこの空間で調整する必要がある」

 イヴはルクから手を離し、その場に座った。もう縋ってくれないと思うと残念ではあるが、ルクもその場に腰を下ろした。

「私は……セーレ以外の大悪魔のシジルを知れば召喚してしまうのかもしれません」

「俺にそんなことを言うと宗教裁判で有罪になるぞ」

「カトリックって厳しいですもんね」

 それはカトリックの基準というより、オラニエ=マース家が――いや、『ルク』が長い年月をかけてそういう国家を築いたからだ。イヴを守るために、そうした。

「どうしたら前向きになる?」

「これは後ろ向きなんでしょうか?」

「そうだな」

「だって、仕方ないじゃないですか」

「仕方……ない……?」

「私は昔から、この世界が自分の居場所とは思えなくて虚しくなることがあります。同じ言語を話している同じ国の国民のはずなのに言葉が通じない感じというか。理解してもらえたことはありませんでした」

「人間たちに違いがなければ人間界は成立しない」

「そうですね。だから自分からは違いに近付かないで平和に過ごす。それって後ろ向きですか? ただ、皮肉ですが――幸せも不幸もどうでもいいと諦めたら、人生が優しくなって適応してきたのも事実です」

「君は面白いことを言う。個性的だな」

「あなたに言われたくないです。一つ聞き忘れていました。時間移動できる人間はあなただけって言っていましたけど、どうして私もできたん……ですか……」

 イヴが急に倒れたから、ルクが受け止めた。穏やかな表情で眠っている。彼女を守っている存在の仕業だ。

 セーレに時間移動の能力はないが、イヴの力を借りることで可能になった。ルクがイヴに触れて邪魔したから、一七三二年の春に行ってしまったのが真相だ。他の時代ではなく、あの時代。思い入れが強かったから咄嗟に座標を指定してしまった。

 ルクの時間移動は、過去を変えてしまわないように『触れても影響がないもの』にしか触れられないようになっている。

 けれどもイヴはルクが触れられないものにも、普通に触れていた。

 あれを見てルクは、今のイヴが大悪魔や魔術師から狙われる可能性があると理解した。守らなければいけない。

 二二七五年にはまだ到達しない。

 物思いにふけるには丁度いいだろう。

 ルクはイヴを隣に寝かせて銀髪を撫でながら、遠い遠い昔のことを思い出した。